円環之書 黎明の白 記す 第壱節「根の誓い」
その日を境に、少年は修練を始めた。糸を観、鉄を打ち、魂を結ぶ術を学ぶ。やがて村は豊かになり、人が集まり、呼ばれし者が増えていった。鉄は村を変え、村は“根”を持つようになった。
ある夜、巫女たちは彼を洞窟のさらに奥へと導いた。そこには黒銀の光を放つ金属塊が眠っていた。それは脈動し、大地そのものの心臓のようだった。
「この地を“根之守”と名づけよう」
白の巫女は静かに言い、朱の巫女は告げた。
「呼ばれし者よ、この場所を護り、伝え、隠せ。ここは未来の器を支える“環”の核となる」
少年は糸を金属へと結び、魂の一部を注いだ。光が溢れ、洞窟全体が脈動する。――その瞬間、世界樹が息をした。
巫女たちは微笑み、闇の中へと消えた。残された少年は胸に手を当てる。そこに宿るのは、自らの心臓ではない。世界の“鼓動”そのものだった。
のちに彼は弟子を持ち、一人は村を守るため外へ、一人は海を渡り賢者を名乗った。呼ばれし者たちは枝葉のように広がり、それぞれの地で系譜を築いていく。
――過去はやがて、時の流れの中で、千年の夢を見ていた。
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