自由研究の決定
「じゃあ、この夏休みは自由研究で“伝承”を調べるってことでいいのね」
母が軽快に言い、古びた手帳をぱらぱらとめくった。台所には夕食の余韻が漂い、煮物の香りがまだ残っている。外からは蝉の声がしつこいほどに響き、夏の夜を押し広げていた。
祖母は湯呑を手にしながら、にっこりと笑みを浮かべた。「観光も兼ねていろんな場所を回ればいい。蓮の勉強にもなるし、わしも久々に旅をしてみたい」
「……俺の自由研究なんだけど」
蓮は机に肘をつき、ぼやくように言った。けれど誰も耳を貸さない。
母は観光案内のパンフレットを広げ、加代へと声をかけた。「この辺りなら“白の家”のホテルが有名よね。加代さん、あなたのお友達が経営しているところ――」
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